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毎日降ったりやんだりする、白いもの。
軽かったり重かったり、固かったりつるつるしていたりするもの。
日々、わたしたちを翻弄したり包み込んだりするもの。
雪は、ここでの暮らしとは切っても切り離せないものです。
(画像は全てクリックで拡大します)
豪雪地帯・朝日町
今回は雪の降る季節、我が家がどんな風に過ごしているのかについて取り上げます。
雪には楽しいこと、困ったこと、怖いこと美しいこと、色々な顔があると思うのですが、今日はさしあたって「生活」にスポットをあててまとめました。
我が家が住んでいる山形県朝日町は、冬にはたくさんの雪が降る豪雪地帯です。
雪国・山形県の中でもなかなかの雪どころで、毎年冬にはのべ5~6mもの雪が積もるのだと言います。
手元にちょうど2021年度3月発行の「雪害対策特報」(JAさがえ西村山雪害対策本部)が残っていたのですが、21年2月20日現在の積雪状況はこんな感じでした。
寒河江市 寒河江 (市役所) | 寒河江市 幸生 | 河北町 (営農C) | 大江町 左沢(役場) | 朝日町 宮宿(役場) | 朝日町 立木 | 西川町 海味(役場) | 西川町 大井沢 |
63 cm | 131 cm | 65 cm | 87cm | 100 cm | 144 cm | 90 cm | 245 cm |
赤字が朝日町内2地点での積雪量です。
近隣の市町村が併せて載っていますが、この地域きっての大都市である寒河江市役所付近からすると、1.5~2倍以上の雪が積もっているのが見てとれますね。
朝日町の雪の多さ、ここから想像していただけるでしょうか。
(ちなみに2021年も例年以上に雪が多かったと言われていましたが、翌22年は更にこれを上回る積雪量でした。苦笑)
我が家は、そんな朝日町の中でも更に山に分け入った場所にあります。
狭い林道かつ坂道を通っていくので、冬場は大型車両・二駆の車は上がってこられません。
(なので宅配便は、小山を下り、家が立ち並ぶ集落の中まで取りに行くのが常です)
都市部に比べたら不便と言えば不便ですが、それでも宅配便も保育園バスも、近場まで車で来てくれる。
除雪車のおかげで埋もれることもなく、通常は家族でまったり暮らしていられる環境です。
ひと昔前は、雪と言えば何といっても「恐ろしいもの」だったと聞きます。
放っておいても、どんどん積もる。
放っておいたら、家が壊れる。戸が開かなくなる。
寒さはまだいい、雪は放置していたら身の危険と直結するものなのだ、と。
ただひたすら降り続ける雪の中に立っていると、なるほど。
知らないうちにじわじわと覆い隠され、飲み込まれていく…
そんな気配を静かに、でも確かに感じます。
今冬はだんなさんが屋根の雪下ろしをしてくれた後、出入り口にちょうど雪がかかってしまい、一瞬サッシが開かなくなるということがありました。
特に大事にはなりませんでしたが、家の内側に閉じ込められてみると、こんなに雪って重いんだ。隙間なくぴったり張付くんだ…と、身をもって味わいました。
雪の恐ろしさ、いろいろあるかと思いますが、個人的には、「音もなく」異変をもたらすところかと。
静かに静かに、目には見えないほどささやかに。
でも確実に降り積もり、やがて気がつくととんでもない重圧をかけていたり、どうしようもなく硬くなっていたり、逆に足場にならないほど柔らかくなっていたりする。
そんなものが安穏とした日常の中に、隣り合って存在している…。
考えると、ヒヤッとします。
わたしたちの住む地域は、過疎の特に進んだ集落。
人が住まなくなった家屋が何軒かありますが、冬の後、誰も手を入れなかった家が、ぺしゃり。と、なんとも呆気なく、儚く押しつぶされている。そんな景色も目の当たりにしました。
雪国に住もうと思ったら、人の手は、絶対必須。
何よりも強烈に教えてくれる景色です。
潰れた家屋には無残さもあれば、そこに誰もいないという事実が透けて見えて、少しほの寂しい気持ちもあり。
顔を見知った人のお家だったのであれば、尚のことです。
突然の困りごと
そんな雪山暮らしの冬の日々、大体は問題なく過ごしているのですが、時には困ることもあります。
その代表格として挙げたいのが、まずは「停電」。
雪の影響で、時々停電が起こります。2022年は1~2回あったような。
こうなると個人でできることはなく、ただ復旧を大人しく待つしかありません。5~10分で復旧することもあれば、何時間もかかることもあります。
携帯で電力会社の情報をチェックしつつ、ただ待つあの時間の、何とも長いこと…。
その間電気は全く使えないので、電気製品でない暖房や照明器具は必須です。
携帯電話も外気温で冷えるとすぐにバッテリーが目減りするので、できるだけいつも一定以上の充電量があるといいですね。
そしてもう一つの困りごと。「予期せず道が通れなくなる」こと。
例えば、斜面に積もっていた雪が大量に崩れてきて、道を塞ぐ。
あるいは、倒木。
降雪ピーク時よりもむしろ、少し寒さがゆるんで雪が溶けてきた頃に多い。
そういう時はもう、地道に雪かきするしかありません。
重なる時は同じ道で2~3回雪崩れに出くわしたりするので、そういう時は本当に「あ~あ…」という気持ちになります。
そういう時に限って、急いでいたりするんですよね…。
雪の特に多かった2021~2022年の2シーズンには、こんなこともありました。
そのいち。
保育園のお迎えに行こうとしたら、
→ 大量の雪で道が埋まっており
→ 知り合いの方に代わりに送り届けてもらったはいいものの、
→ やっぱり家まで車は通れず
→ お父ちゃんが頑張っておんぶで帰宅しました。
という話。
先述の通り、我が家は小山を登ったようなところにあるのですが、雪の中の登り坂、所要時間15分くらいというのは本当に、本当に大変だったと思います…。
そのに。
お出かけしました。
→ 帰宅しました。
→ 玄関の階段が無くなっていました。
という話。
「あるある」だと地元の方には言われましたが、うちの旦那さん(とかいとこ12年目)もここまでの雪は初めてとのこと。
車中で早く出せと暴れまわる怪獣二人を尻目に、父母二人でがんばって階段を発掘しました。
いずれもその時になるまで思ってもみなかった事態で、天候や環境なんてものは、自分の経験や人智なんてものを軽々と超えてくるものなんだな…と思います。
とりあえずお父ちゃん、いつもありがとう。
雪のお手入れ
前述のように、雪は誰が嫌だと言っても、毎日飽きもせずに降ったりやんだりするもので、小まめな手入れが欠かせません。
各家庭での雪への対応と言えば、
①雪が降る前にすること
・雪囲い(玄関口や通路など、家屋の周りに囲いを作る)
②雪が降ってからすること
・雪下ろし(屋根に降り積もった雪を下ろす)
・雪かき(通路や駐車場など、邪魔な雪を退かして捨てる)
農作業をされるおうちは、これに畑のケアも加わるのかもしれませんね。
特に雪下ろしは屋根の上にのぼる、ということで危険度も高く、予断を許さない作業です。
高い高い梯子をかけて登っていくだけでも怖そうだと思うのに、その上で立って重たい雪を下に放り投げる…
自分はやったことが無いので、もうただただ、ははーと見上げるばかり。
そもそも、地元の人でも落ちて亡くなられたりと雪下ろし関連の事故は多く、初心者の自分がほいほいと手を出せるものではありません。「雪下ろし講習会」というものが催されているほど。
落下時にすぐに発見してもらい助けてもらう為にも、複数人での作業が良いとされています。
危険もあり、体力も要する。
かくも大変な雪下ろしですが、これをしないと屋根が潰れかねないということで、毎冬シーズンになるとどこのお宅でも、ユキオロシメンドウ・ユキオロシヤッカイ・ユキオロシドウスッカ…と言った呪詛のような声が聞こえてくるような気がします。
ご高齢のお宅など、業者さんに有償で頼まれる方もいらっしゃるようです。
雪への対応は、公共サービスでも行われています。
早朝から除雪車が何台も出動し、道路の状態や大きさに合わせて大中小様々な車が、器用にすいすいと雪を掃いていってくれます。
掃いた雪は道路脇に壁のように積み重ねたり、多い時はトラックなどに載せて河川敷など広い場所へ。
そして積雪の多かった2022年、斜面に積もった大雪や「雪庇」と言われるせり出した雪の塊を、わざわざ道路上に落として除雪する作業も行われていました。
落雪による事故をあらかじめ防ぐという訳です。
何人もの作業員の方が命綱を張って険しい斜面にぶら下がり、雪を落とす。
それを除雪車が道路脇に運んで寄せていったり、よその広い場所へ運んでいったりする。
更にクレーン車も出動し、アームで集めた雪を大型トラックに積み込んで運んでいったりして、そうして道路を安全無事に通れるようにする。
こういう大掛かりな除雪作業では一時道が片側通行になったりするので、なかなかスムーズに通行できなくなります。それも一時ではなく、一日中のこと。
でも斜面にのぼって作業している人たちや、交通整理している人たち、機械を操作している人たち…目の当たりにすると、何も言えない。
今年は雪、すごいなあ。
自分一人では、暮らしていけてないんだなあ。
誰かに支えてもらってるんだなあ…とこういう時、身に染みて感じています。
予測の範囲を超えるもの
山形の歴史を紐解くと、一昔前は雪は「克雪」「雪害」と言って、打ち勝たないといけないもの、生活に大きな害をなすものという存在だったようです。
機械化が進んだ今でさえ、雪は手間と時間がかかるものです。
その当時は猶のこと、手間はかかるし大変な重労働だしで、雪憎し、コンチクショウというものだったのかもしれません。
かつて積雪地方の農村の窮状を訴え、奔走し、亡くなった後は「観音様」と祀られるまでだった議員さんが居たお話 *1。
雪のことを専門に調査するべく設立された行政の機関があった話 *2。
たくさんの人がたくさんの関わり方をして、なおもカバーしきれないことがある。生活に及ぼす影響の大きさが伝わってきます。
わたしはここで5回目の冬を終えたところですが、今冬を越して、雪のこと、まだまだ何も分かっていないのだなということを改めて実感しています。
雪の状態も、見ただけでは分からない。
ぎっちりと硬い雪なのか、塊に分裂しやすい雪なのか、実は踏み込んだら脆くも崩れてしまうのか。
それはどんな風に歩けば歩きやすいか、雪かきはどんな風にやると疲れないか。
車で進んだら、噛んでしまう雪か。滑る雪か。
やってみるまで判断できないこと、体で、目で、体験で覚えることがたくさん。
ものの本を読んでいると、30年雪道を車で走っても、尚もヒヤッとすることの連続だ、とありました。
町のとある著名な方の文ですが、曰く
「ひとことに「雪」ではあるが、雪というもの、そんなひとことで片付くような簡単なものではない。・・・氷の上のブレーキと簡単に言うけれど、その氷さえ気温零下の度合い、二度、五度、十度の状況で、バーン上の平面反応は科学的に全く違ってしまう・・・重い雪、軽い雪、堅い雪、シャベルの手かげんも、まさにその日の気温次第の気まぐれである。*3 」 と。
これを読んで、なるほど地元の方でも、長年雪と付き合っても予測できないことがあるのだと思ったのと、
それなら自分は判断できないことばかりでも仕方ない。
仕方ないけど、身を守る為の知識と経験は積み重ねておかないと、と改めて思ったのと。
どこまで行っても雪のことは分かり切るなんてできないくらいのものなのでしょうが、ある程度の対応はできるようになっていられないと、困る。
それくらいわたしは、隣人としての雪に馴染みがない暮らしをしてきました。
目下、修行中です。
そうこうするうち、3月に入るとやっと春めいてきて、今度は雪が解け始めてきました。
玄関までの雪の階段が、見えない表面下でぼすっ、ぼすっ。と解けて崩れて、何度も足を取られたり、バランスを保てず膝をついたり。
これ、ピーク時に味わったどの場面よりも緊張するし、危ない!
…と、ヒヤヒヤしながら足を進めています。
前を行く子どもたちの、軽やかさよ。
この土地で育って毎日雪遊びをしている、彼・彼女の方が、案外雪には手馴れていそうです。
参考情報
今回の記事をまとめるにあたって、参考にした情報は以下の通りです。
・JAさがえ西村山『雪害対策特報』(JAさがえ西村山雪害対策本部・2021年3月1日)
・阿部宗一郎『句集 村住まい』(井筒屋書店、1992)
故・阿部宗一郎氏は、朝日町だと恐らく知らない方のいないくらい有名な方だと思います。
私はまた聞きの域を出ませんが、朝日町を代表する企業である朝日相扶製作所の創業者であり、町の情勢を改善せんと多方面で尽力、貢献されたのだそうです。
その功績から朝日町名誉町民の称号を授けられ、お亡くなりになられた際は町全体を挙げての町葬としてお葬式が行われたとのこと。
いくつも書籍を刊行されていますが、これはその中の一冊です。
今回は単純に情報源として引きましたが、様々な含蓄に富み、自分とは異なる大変な時代と価値観を生き通された先人の書物として、一冊通してとても面白く読みました。
*3 の文章の引用は、こちらのp.18-19 より。また *1 の議員さん(松岡俊三衆議院議員)が観音さまとして祀られたという記述は、p.2-3 に登場します。
現在に残る資料によれば松岡議員が観音像を故郷のお寺に祀ったということのようですが、周りの人からはその観音像は転じて議員そのものとして扱われたのかもしれません。
同時代を生きたであろう筆者によれば、議員の「生涯をかけた闘い」により寒冷地手当が創設されたけれどその手当を受けられたのは公務員のみで、それ以外の「雪の上をほんとに這いずり廻って生きるひとびと」(p.3)には何の恩恵も無かった。というところに、時代の強いひだ、しわみたいなものを感じます。
・雪の里情報館:雪調のあゆみ http://yukinosato.jp/?page_id=117
*2 の行政機関、「旧農林省積雪地方農村経済調査所(略称:雪調・雪害)」について紹介されています。雪調については私もさわり程度の知識しかありませんが、雪国独自の歴史が垣間見られて面白い、もっと知りたいと感じています。
*1 の松岡議員についても、こちらで分かりやすい紹介がされています。
・やまがたへの旅:雪の観音/父母報恩寺 https://yamagatakanko.com/attractions/detail_1523.html
今回は主に困ったこと、大変なこととしての雪の生活を紹介しましたが、嬉しいこと、美しいこと、良い気持ちのことも様々あります。
次回は、雪のそういった方面を選んで紹介したいと思います。
(2022年4月)
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