足跡 追って(雪山暮らし・小編)

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※もともと「雪山暮らし 楽しむ編」にまとめていた項目を、個別の記事としてまとめ加筆修正したものです。

 
 
山にはいろいろな生き物が住んでいます。
でもふつう、私は直接彼らと関わることはありません。
せいぜい道をよぎる影をふと目撃したり、何らかの痕跡を見かけるくらい。

ただ、雪が降ると途端にこの痕跡が身近になります。
足跡です。
普段は意識していない、でも周辺に確かに存在している生き物の息遣い、足遣い。
しんしんと降り積もる白い雪の上に、そっとそれらは残されていきます。

どんな生き物が、どんな風に生きているのかな。
想像してみても想像しきれない、とてもかすかな、私と彼らの交点です。
 

行き合う生き物たち

ネコ。
キジ。
たまにウサギやキツネ、更に稀にカモシカ。

雪の季節、我が家の周辺で良く見る足跡はこんなところでしょうか。
ネコとキジは本当によく見ます。
キジはVサインにもう一本付け足したような三本指が特徴的。
彼らは初動が遅いのか、いつもその姿を認識してから飛び去るまでに少し時間がかかるので、割合しっかり目撃することができます。私のひそかな楽しみで、散歩に出る度に会えるかな、今日は会えるかなとわくわくしています。
キツネは前後の足跡を重ねるように歩くとところが個人的に面白く思っていて、足跡を見つけた時にはもしやキツネじゃなかろうか?と、気を付けて見ています。

最近では、サルもありました。
ある年、正月からニホンザルが地区に出没し問題となりましたが、彼らの足跡とフンを見つけたのでした。 
その時は家族全員で散歩していたのですが、見慣れない形と大きさの痕跡に、一瞬ついにクマと遭遇か、と血の気が引く我々。
鉢合わせては大変と、速やかに騒がず家に戻りました。
ただ調べてみると、クマとは手の形が全く違う。その時見たものは私たち人間の手のような跡で、親指だけ他の指と離れた形についていたので、恐らくクマではないのだろう。
と見当がつきました。
ネットの情報ではサルが近いのかと思っていましたが、その後数回実物を目撃し、やっぱりサルだと分かりました。

リアルタイムで調べてみた時は「へえ~」と興味深く見ているのですが、実際道で行き会うと、即座にどの動物の痕跡なのかの判断はつきません。
多分それができたら、動物博士を名乗れる域だと思いますが。


 

*足跡3種/インク/25年


足跡追って


ところでその足跡に関してつい先日、忘れられない出来事がありました。
25年1月のことです。
その日の雪は乗ってもほとんど沈み込まず、どこまでもその上を歩いて渡って行けるような状態でした。
一度晴れて融けた雪が、また気温が下がるにつれて凍って、結果的に固くしまったのか。
こんな状態は滅多にありません。
大興奮で、その辺り一帯をどんどこ歩き回る私と子どもたち。

でも、それはそうです。
だってふつうは地形が厳しく登れないような斜面が、とても登りやすくなっている。
下り坂であれば、そこは何もせずとも、自然のすべり台です。

沈み込まない!
どこまでも行ける!
這い登れる! 滑り降りれる!
すごいすごいと、親子そろってテンションが上がってしまうのも、仕方のないことです。
 
そのうちに見つけた、複数の生き物の足跡。
我々が斜面を登れるくらいの雪の固さなので、足跡もくっきり残っています。
その中に、チョキの形をした跡がありました。

―――この形、カモシカかも?

ちょうど数日前、山の斜面を去っていく後姿を一瞬ちらりと目撃したところでした。
普段は会えない魅力的な獣を、また見られるかもしれない。そんな可能性に、思わず胸が高鳴ります。
いつもは踏み込めんでいけないような獣道でも、今日の雪の状態だったら?
更に奥まで追っていける!

足跡の後ろをついていく私に、子どもたちも興味を示し、ぞろぞろうろうろと徘徊します。
子どもたちは、急な登り坂をロッククライミングのように登っていくのが楽しい様子。
つい調子に乗った我々は、山の方まで足を踏み入れていったのでした。

途中やっぱり何度か足元をすくわれながらも、やっとたどりついた斜面の上。あと一山超えると、アスファルトの敷かれた人の道に出ます。
家の上を通っているおなじみの道。
が、この上に人家はない為、除雪車もここまでは来ません。冬は雪がもさもさ積もっています。
追ってきた足跡はとある木の方へ続いていましたが、見るとそこにはカモシカ疑いの獣のみならず、無数の大小異なる足跡が、縦横無尽に集まって周囲をめぐっている。

何だろう、これ。
木の根元の白い雪の上に、広範囲に橙色が散っている…

それは、柿の木でした。
柿の実は、他の木の実が無いような冬の間も、赤々と樹上に残っています。何だか他とは一線を画す異なる空間を生きているようで、その姿は私の記憶にも印象的に残っていました。
なるほど、柿の実を食べに、鳥だけでなく獣もまたここに集まるのか。
柿を食べる生き物って、結構いるんだな。
それが分かるほど、様々な形の足跡が木の周りに残されています。
ただでさえ食べ物の見つけにくい冬場、この鮮やかな色の果物は真のご馳走なんだろうな、ということは想像に難くありませんでした。



柿の木を横目に、最後の登り坂をのぼって道路に出た時です。
目の前に、何か大きな足跡があるのに気が付きました。
体を引きずりながら通ったらしく、広い溝がついていて、その中にぽつぽつと足跡が刻まれているようでした。

カモシカではない。
もっと大きな生き物です。
 

*あっち行かない方がいい/インク/25年

 
 
 
―――クマかもしれない。
 

最初に思いついたのは、それでした。
思いついた瞬間、血の気が引きました。
浮かれていた気持ちが急にしんと静まり返り、真っ白な世界が恐ろしいもののように見えてきました。

足跡は道路の上をたどるように、山の上と森の奥をつないで残されています。どちらから来てどちらへ去ったのか、私には判別できません。
足跡は細部がつぶれてしまって、どの方向を向いているかも分からないのです。
山の上の方から、ぬっと何かが現れるかも。
あるいは森の奥に足跡の主が居るかもしれない。帰り道はその森の方から帰ろうと思っていたところでした。

考え始めると、その場に一秒でも長くとどまっていることが、とてもとても怖いことのように感じられました。
一刻も早く元の場所に戻った方がいい。
森の奥を通る道は、当然ながらやめた方がいいと判断しました。
パニックにさせないように気を付けながら、できるだけ丁寧に、でも簡潔に、子どもたちにそのことを説明します。めいめい、自分の手足で降りて行ってもらうのが、一番早くて安全だと考えたからです。
子どもたちは案の定青くなりましたが、まだお互いに姿が見えたわけではないから大丈夫だよ、邪魔しないようにそっと帰ろうね。
そう奮い立たせて、元来た斜面で比較的楽な道を選び、帰宅しました。
  
 



 

振り返って

 
 
…と言う具合に、心底肝が冷える思いをした一件でした。
何かの動物とニアミスしなくて、本当に良かった。
ただ今回のことで、とても勉強になったなと思ったことがありました。
それは、
 

・冬場の柿の木周辺は、動物たちが寄り付くポイントになる
・人家の周辺でも、人の往来のない場所は、基本的に動物の世界であると思った方が良い

 
この2点を文字通り、肌身で感じられたことでした。
そして何より大きな教訓として、

知識と経験のない自分たちが、不用意に動物たちのテリトリーに踏み込むのはやめた方が良い。

ということ。
行けるからと不用意に山奥に踏み込もうとせず、人家が見え、車等の生活音が届く場所で遊ぼう。
そう言うことを、深く胸に刻みつけました。
子どもたちも各人かなり鮮烈に怖い思いをしたようでしたが、おかげで色々と話し合う機会となりました。
どこでどのように暮らしていてもリスクと危険はついて回るもので、絶対安全に過ごすことはできない。
だとすれば彼らは彼らなりに、自分の住んでいる場所ではどんなことが危ないのか、どんなことをしない方が良いのかを意識していくきっかけとなったのであれば、一つの収穫だったなと思います。

 
なお後から思い至ったのは、もしかすると足跡の主である大きな生き物はクマではなく、イノシシだったのかもしれないということでした。
足跡は体躯の痕跡でところどころかき消されており、あまり詳細には目視できなかったのであくまで可能性ですが、その後、近くの山の方でイノシシの死骸があったと伝える写真家の方の記事を目にしたのです。
記事には、外傷は無かったので飢えか病気によって死んだイノシシだったのではと言う文章も付されていました。私が見た体躯を引きずるような跡は一体どう言うことだったんだろうと思っていたので、体力の尽きかけている獣だったのなら頷ける、と思ったのでした。
記事に付された写真の中で力なく雪中に横たわるイノシシは体長130cmともあり、改めて私が出会った獣の跡の大きさを思い出したりもしました。

実際のところは今となっては分かりませんが、やっぱり野生の動物に不用意に近寄って、良いことは双方ともにありません。
私はクマかもしれないと言う危険を真っ先に思いつきましたが、本来はカモシカであれイノシシであれ、安易に近づきすぎるとこちらが傷つけられる可能性は十分にあるのだと言うことは、恥ずかしながらずいぶん後から思い至りました。
また、相手の獣にも傷を負わせる可能性だってある、ということも。
自分が山の生き物について勉強を怠っていたことを改めて自覚し、反省しました。
先述のことを守りながら今後ものびのび四季を楽しみたいと思っていますが、何かと判断材料になる知識は増やしておいて損はない。
ということで、クマのこともイノシシのことも、その他の生き物のことも、今後の宿題の一つとして取り組んでいきたいと思っています。

 
 

 ・
 

*実ひとつ/インク・水彩絵具/24年


 
見上げる先には、件の柿の木。
次の冬にも、また動物のご馳走の場となるのでしょう。
こつこつと宿題に取り組むべし、と言われているようです。

*末尾のイノシシに関する情報は、わらだやしき自然教室 様を参考にさせて頂きました。

「#春を迎えられなかった」(25年2月24日)
https://www.facebook.com/share/p/1CGbVDpZhq/


わらだやしき自然教室は、同じ朝日町にお住まいの自然写真家、姉崎一馬様と奥様が開かれていた自然教室です。子どもたちが自然やその中での暮らしについて体験できる施設として、1970年からの長きにわたって(最初は新潟県、朝日町では95年より)運営されていました。
25年2月の記事を拝見すると残念ながら自然教室の活動は一旦終了とされたようでしたが、今も朝日町のみならず、山や生き物を含む全国の様々な情報と写真を日々発信されています。
掲載される写真も文章も、長年の経験と知識と感覚に裏付けられていて、いつも見惚れたり学んだりさせて頂いています。


(2025年2月投稿、5月再編集)

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